アクリディアン宏

平和なべログ

シン・ウルトラマン感想/作りものぽさを上書く作りもの

※内容のネタバレあり

 

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劇場上映がまだまだ先のことだと思い込んでいた折、親切な友人より公開の知らせを受け、勢いでチケットをとった。
公開をすごく楽しみにしていたかというと封切り日を全く把握していなかった通りそうでもなく、しかし見るか見ないかでいえば多分見るので、ならばネタバレを気にしなくていいように早めに見ておこう、その程度。
 
私の世代はおそらく特撮的なるものが下火だった幼少時代を過ごしている、ような気がしている。
 
幼少期から大人の今にいたるまで、同世代の友人と特撮の話題で盛り上がった記憶がなく、むしろ自分よりひとまわりふたまわりほど上の世代の人との方がその方面での話があう。
 
私は幼少時代、怪獣がなによりもかよりも好きだったので何かにつけて親にレンタルビデオをねだってざっとウルトラシリーズを履修しているものの、リアルタイムでテレビ放送されているでもないそれらは友人との共通の話題にはならなかった。
 
先のシン・ゴジラのときに、同世代の友人らの多くが「特撮怪獣系」コンテンツに触れることなく幼少時を過ごしたということを改めて知ったものの、それでも当時ゴジラは平成VSシリーズを毎年劇場上映していたのでまだよかったのかもしれない。
 
ただ不思議なもので、ウルトラマンにまつわる設定まわりについてはコマ切れながらネタとして周囲にごくごく偏在していた。
 
・3分の時間制限
・ペンライトで変身
スペシウム光線のポーズ
・バルタン星人の鳴きまね
ジャミラかぶり
・シュワッチ
 
これらが物語から一人歩きし、ごくごくありふれた児戯の中で機能をし、そしてそれらがもしかすると私たちの中にあるウルトラマンの全てだったのかも。
 
※以下内容ネタバレ有り
 
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昼過ぎに見終わり劇場を出たときには、対怪獣との不気味なアクションシーンの気持ち悪い気持ちよさですっかり楽しくなっていたが、だんだん時間がたって落ち着いてくるとやはりメフィラス星人(人間体)の芝居が断トツでとてもよかった。

 

MIPメフィラス

初代ウルトラ怪獣の中で例の宇宙恐竜とは別の意味で特異な存在感を残したトリックスターメフィラス星人

その立ち回りはおおよそ原典をなぞるも、今回初登場時は人間の姿にて接触を図ってくる。

 

まず巨大怪獣があらわれ、次の脅威はウルトラマンへの擬態、そしてその次は人間体として。

この流れ、どこかで既視感が……?

 
というのはさておき、このメフィラス人間体(演:山本耕二)がとてもよかった。
 
外星人ながら、人心を掌握するために人間の文化・作法などを学んでおり、トレーラーにもあったように初対面でいきなり名刺を差し出してくる。
 
これに人間側の方が逆に面食らうわけだが、その後もウルトラマン/神永との接触〜居酒屋のシーンでは「河岸を変える」「大将おあいそ」「割り勘で」といった、「いかにも通」っぽい表現を衒ってくる。
 
このあたりの表現のニュアンスが絶妙で、何というか覚えたての大人社会の符丁を不必要なまでにふるう大学生という感じがとてもよかった。決して間違ってはいないのだけど、どこかその場の文脈に乗り切れてない「作為感」のようなものが漂う。
 
さらに別のシーンでの政府要人との面会の際に入室着席まで頭を垂れたまま待つところも抜群に気持ち悪くて最高だった。どこぞのマナー本に書いてあったのだろう、きっと。
 
先での俗語も合わせて、「現実(リアル)では確かにありえるけれど、ちょっと違うかな?」という絶妙な違和感による人外の表現がどうにも気味が悪くていい。
 

しかし一方で

翻って人類側サイドはというと、それはそれで人外っぽい、というか「実際現実にこんな喋り方/会話のやりとりをするやつおらんやろ」な人ばかりで、もしかしたら映画全体の台本のセリフを抜き出してみたら、「あれ以外とメフィラスが一番現実(リアル)っぽいセリフを喋ってるかも」という逆転現象が起こるかも?とも思った。

 

この人間同士のなんだか「アニメ作品中のセリフの豪速球会話キャッチボール」を実写映像で俳優さんが繰り広げる感じは結構人によっては無理かもしれない。

 

緊迫した場面の演出としてセリフに滑舌が追いついていない、とかいうものでもなく。

 

日常会話を無駄に早く無駄に長いセリフで真顔のまま目も合わせず応酬しあう場面(うすら寒いジョークを交えながら)など、なかなかむずがゆいものがあった。

 

私は人並み以上には免疫がある方だと思うが、それでもこの「むずがゆい気恥ずかしい感じ」には上映終了までとうとう慣れなかった。

 

まれびとマン

この早口集団の中にあってとにかく喋らないのがウルトラマンである神永で、こちらも外星人らしい無機的な芝居で演じられる。
 
ある演出/脚本上の仕掛けで観客が神永の心情、心の機微(の謎)に注目せざるを得ない作りになっていると思われ、要求しなくても怒涛の個人情報設定をペラペラ開示してくれる他の面々を差し置いて、感情移入(あまり使いたい表現ではないけれどあえて言うなら)がしやすく親しみが持てるのではないか、とも思った。
 
最終的な彼のモチベーションというか心情に至るまでの変化の過程の描写はちょっと粗いのかな、と感じる部分もあったが、結局のところ見終わった後に登場人物の中で一番人間臭かったな、感じたのも彼だった。(次点というか別の意味ではメフィラス)
 
人間を知るために図書館で高速で読んでいた『野生の思考』もすごくベタなところからいくな、と笑ってしまった。
 
司書さんにレファレンスを依頼したのかもしれないが、どんな頼み方をしたのかその場面を想像するとちょっと微笑ましくなる。
 
チェーンソー持ってひとりで敵のアジトに乗り込んでくる人の方がよっぽど人外っぽくないですか?
 
 

そのほか

・ソフビ遊びを思い出すグルグルキックが最高だった
ウルトラマン/怪獣たちの慣性を無視したアクションの不気味さがとてもいい
・怪獣たちのリファインどれも最高によかった。特にメフィラス、元がめちゃくちゃデザインがいいだけに
・Qべえマグカップはちょっとあざというというか意味がつよすぎかな…
・何も前情報を得ずに見に行ったのでゼットン登場〜ピポポポポポの鳴き声でめちゃくちゃ興奮
・一兆度のネタを無事回収
・プロレスのト書きも原典への愛が溢れていた
・ホラーのようなゾフィーの登場と、それにビビるメフィラス
団地のロケーションの最高さ。あの遊具たちまだあるのか……
・匂いでたどる、のギミックというか原理が全くわからなかった。単に庵野リスペクト要素(エヴァでのマリがシンジの匂いをうんたら)なだけ?
ゼットンという見えているカタストロフィの側で日常が淡々と進んでいるのがシン・ゴジラのその後というか、3.11以後の表現という感(エヴァ破劇中でも類似するカット/シークエンスがあるけれど画面から受ける印象がかなり異なる)
・原典の着ぐるみ流用というメタな事情を禍威獣=生物兵器という設定の伏線に転用
 
など
 
演出として気になった箇所や表現などもありつつも、ウルトラマンを子どものころに浴びた人間として、とても楽しめた映画でした。
 
ただ、自分がウルトラマン原典をある程度知っているからこそ分かるネタや楽しめるポイントがものすごく多かったというのも事実で、冒頭に述べたように世代的にもウルトラマンとは縁のなかった友人らに積極的に勧められるかというと……ちょっと躊躇うかもしれません。
 
「見に行こうと思うけど楽しかった?」と聞かれた場合には「楽しかった!早く行って!」と言います。
 
 
しばらく怪獣ものから離れていた分ぶりかえしたのか、成田亨さんの作品集をポチってしまった。